「CNET Japan - 梅田望夫・英語で読むITトレンド:新任リーダーは最初の90日間が勝負」に関して

CNET Japan - 梅田望夫・英語で読むITトレンド:新任リーダーは最初の90日間が勝負

「どいつもこいつもどうしてこうバカばかりなんだ」

ブルースはいつもこう思っていた。仕事はもちろん私生活に至るまで自分が関わることのすべてに勝たなければならないというのが、彼の信条だったから。北米事業責任者に就任するとまもなく大リストラを敢行、厳しい競争原理を組織に導入した。そして数ヶ月で業績をぐっと回復させると、彼はチャーリーに迫った。自分をCEOにしろと。任せてくれれば必ずADLを立て直すと。ブルースを高く評価していたチャーリーも、さすがにそこまでは飲み込めなかった。「それならば他に行くところはいくらでもある」と、ブルースは退社していった(驚くべきことに退社する数日前までブルースはレイオフを止めなかった。それが彼のポジションに付与された権利だったからだ)。』

自分との違いを感じるエントリーだ。だからこそ貴重なエントリーだと思う。「世の中には自分と違う人がいるなぁ」と終らせるのは非生産的で、自分の違和感の解決にもならないので、何故ブルースの考えと自分の考えが違うのかを考えみたい。なんだかそれが、自分のキャリアの積み重ねによって得た経験に原因があるような気がするからだ。

ここでは、個人の性格・資質・個人的な目的、組織としての目的の二点に着目して比較を行いたい。

ブルースの性格・資質は、自分は極めて優秀であり、多くの場合他人は自分よりも劣ると考えていること。そして彼の個人的な目的は、自分自身が歴史に残るCEOとなることだろう。その結果、個人的な満足が最大化する。結果、収入も満足の行くものになるということなのだろう。自分が極めて優秀なため、如何なる舞台、特にニッチな舞台ではなく、競争が極めて激しい表舞台で闘うことを恐れない。負ける気がしないのだ。

ブルースの考える組織としての目的は、短期的に収益を挙げられる組織を作り上げること。結果的に、会社の迅速に企業価値を高めることになる。よって、スコープは短・中期的なもので、その手法として最も相応しいアプローチは、人材のリストラということになる。リストラは、組織に緊張感を与えると共に、ブルースに対する畏怖を生むため、ブルースは更に革新を進めることができる。

一方で厚かましくも自分の考えを披露させて頂きたい。

自分の性格・資質は、平均的で凡庸でありブルースに言わせれば極めて「mediocre」であると考えることにある。そのため、常に恐怖心に駆られている。自分よりも優れた人材は多く存在し、彼らと同じ舞台で伍して闘い、成果を上げていくためには、優れた人材の数倍の努力をしなくてはならないと考えている。加えて、優れた人材と同じ舞台で戦うよりも、彼らが気付いていないニッチな舞台を見つけ出し、その舞台をリードすることに最大の喜びを感じる。それが自分のパラノイア的性格と、鶏口牛後的精神を重視する価値観とぴったりと一致するからだ。

自分の考える組織としての目的は、長期的に収益を挙げられる組織を作り上げること。そのためには、確固たる企業文化を確立する必要がある。最も重要なのは、社員間での企業文化の共有だと考える。そこで最も重要な資産は、企業文化を共有する人材であり、もっとも恐れるのはリストラである。リストラは企業文化にプラスになることは恐らく無いと考える。自分が歴史に名を残すことに関心は無い。自分が創立に貢献した組織が、継続的に収益を挙げ、優秀な人材を輩出し、その結果社会に利益、人材の面で大きく貢献する。そのことが、自分の最大の喜びである。

違和感を感じたのはこのような価値観の違いから生まれたものだと思う。学生時代や、社会人になりたてのころはブルースのような価値観を自分は確実に持っていた。しかしながら、自分がスタートアップに勤務し、幾つかの大きなリストラが行われた組織を経験し、それを期に幾つかの人材に関する書籍を読み、考えてきた望ましい組織とは何かという試行錯誤からは決してブルースのアプローチは導き出せない。

そしてブルースの価値観を理解することも当然できる。それは次のような理由でだ。コンサルティングというビジネスは、多くの場合、個人個人の能力に大きく依存する。だからこそ、ブルースが用いた激しい競争心を煽る結果に繋がる大規模なリストラはその面では極めて有効に働くモデルだったのだろう。そして、彼の言う「Just fix itアプローチ」や「言い訳をしたがる組織はくずだ」という意見にも賛成する。

ただ自分なら、"Fix it with us"と言い、"言い訳せざるを得ないのは何故か?"、"自分が採用した人材が何故に組織の中でmediocreになっているのか"を考えるだろう。そこが違いかもしれない。

ちなみに書籍で言えば、以前の自分は Amazon.co.jp: 本: ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争に夢中だったろう。

だけど今はAmazon.co.jp: 本: 隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密Amazon.co.jp: 本: ビジョナリー・カンパニー 2 − 飛躍の法則Amazon.co.jp: 本: 失敗の本質―日本軍の組織論的研究にとても共感できる。学生時代にこれらの本を読んでもまったくピンとこなかっただろうが、今は非常に影響を受けているし、納得できるものだ。